交通事故の慰謝料は増額できます

裁判官も指摘する保険会社提示額の不当性

正しい基準は「裁判所基準」以外に存在しない

そもそも、各種の事故において支払われるべき損害賠償の額は、裁判所が決定する事項であり、他の誰か(例えば保険会社)が裁判所の基準についてどうこう言えるような余地は一切ありません。

なぜなら、損害賠償の額をどうするかという問題は、民法第709条や自賠法第3条の条文における「損害」の内容をどう考えるかということであり、法律解釈の問題であるからです。

日本国憲法第76条第1項によれば「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」と明記されています。
法律問題に対して判断を下すことが出来るのは裁判所だけであり、損害賠償の額を定めることが出来るのも裁判所だけです。

裁判所基準の内容について

裁判所は、全国で日々多数発生する交通事故等の処理を迅速に行うため、「後遺障害○○級であれば、そのような障害を負ったことに対する精神的苦痛に対する慰謝料は△△円」というような基準(相場)を形成し、それに沿った処理を行っています。
このような「裁判所基準」は、法律の条文等に明記されている訳ではありませんが、例えば大阪地裁民事交通訴訟研究会編著「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準」といった著作によって公表され、流通しています。
その他、損害賠償の基準については、いわゆる「赤い本」が有名です。
これは、日弁連交通事故相談センター東京支部の著作ですが、東京地方裁判所交通部の裁判官の見解や裁判例を集約して作成したものであり、裁判所の見解と言っても過言ではありません。
裁判所の裁判官室の書棚に「赤い本」が置かれており、裁判官がこれを見ながら判決を起案していることは、周知の事実と言っても良いでしょう。

そして、上記「大阪地裁本」でも、「赤い本」でも、後遺障害10級に対する慰謝料は「550万円」と明記されています。
事案の悪質性等により増額等の余地はあるものの、「550万円が基本」であることに異論の余地はありません。

「保険会社基準」の実態

ところが、このような裁判所基準に比して、保険会社が被害者に対して示す「保険会社基準」による慰謝料額は、著しく低額となっております。

例えば、1ヶ月の交渉で賠償金が1600万円増額した事例、をご覧ください。
この件では、相手方損保(某共済)の被害者ご本人に対する当初の示談提示額は約800万円であり、その中でも、後遺障害10級10号に対する慰謝料は「共済基準」「1、870、000円」と明記されていました。
裁判所基準(550万円)の約3分の1という低額です。

これに対し、当事務所は、当然のことながら、「後遺障害慰謝料550万円を支払え」等の請求をしたところ、相手方損保は1ヶ月以内に賠償金額3倍増の示談に応じてきたのです。

このように、加害者側の保険会社は、裁判所では絶対に通らないような低額の「保険会社基準」を勝手に作り、弁護士からの請求なり訴訟提起がなされれば増額する、という態度をとっているのです。

東京地裁交通部長のご見解

このような損保会社の態度について、東京地方裁判所第27部(交通部)の部総括判事である河邉義典裁判官(部署と肩書きは平成14年当時)は、弁護士向けの講演の中で、次のように述べておられます。

「任意保険会社の示談基準は、現行のような水準でよいものでしょうか。ある雑誌には、日本の損害保険会社は、欧米諸国の損害保険会社に比べて、支払った保険金の割合(損害率)が低く、契約者がその「払い渋り」について根強い不信感を持っていると書かれておりました。民事27部の裁判官の中にも、利益第一という保険会社の企業体質を問題視する者が少なくありません。」
「若干の例を挙げて、お話をしたいと思います。まず、裁判基準との格差が目立つのが死亡慰謝料の金額です。最近私が扱った事例では、赤い本の旧基準ですと2000万円となるべき独身男子の死亡慰謝料について、950万円という提示の例がありました」
「提示される示談金の水準は、赤い本による裁判基準と比べますと、多くの事案において、その6割前後であり、被害者側に弁護士の代理人がついて交渉をするケースで7割から8割くらい、マックスで8割5分くらいというのが、率直な印象です。『腹八分目』に達しているケースは、残念ながら、ほとんどありません。」
(東京三弁護士会交通事故処理委員会編「新しい交通賠償論の胎動」(ぎょうせい 平成14年)41頁 より引用)

損保会社の支払提示基準は、交通事故実務に通じた裁判官の方々からも問題視されているほど「利益第一」のひどいものなのです。

このような保険会社の不当な提示に従って、彼らの作成した「免責証書」に唯々諾々署名押印をされるか、それとも我が国の司法制度が認める正しい権利を実現するために行動を起こすのか、それは被害者ご本人のお気持ち次第です。